• 年金振込後の預金債権に対する差押処分を適法と判断(東京高裁平成30年12月19日判決)。
  • 高裁、違法か否かは実質的に差押禁止財産自体を差し押さえることを意図して差押処分を行ったといえるかどうかなどを総合的に考慮して判断すべき。本件は年金自体の差押えを意図したものとは認められないから、違法とは言えず。

本件では、納税者名義の預金債権の差押処分が実質的にみて差押禁止債権を対象とした違法なものであるか否かが問題となっていた。事実関係をみると、年金生活者である納税者の滞納(固定資産税2,000円)に対して前橋市は、平成28年4月15日に納税者名義の預金残高約9万円のうち2,000円の払戻請求権(預金債権)の差押処分を行った。なお、同月14日の預金残高は465円であったが、翌15日に年金が振り込まれたことにより差押処分当時の預金残高は約9万円となっていた。裁判のなかで納税者は、差押処分は年金の差押えを禁止した国税徴収法の趣旨に実質的に反する違法なものとして差押処分の取り消しを求めた。

高裁は、国税徴収法が年金等受給者の最低限の生活を維持するために必要な費用等に相当する一定の金額について差押えを禁止した趣旨はできる限り尊重されるべきであるから、①滞納処分庁が実質的に差押禁止財産自体を差し押さえることを意図して差押処分を行ったといえるか否か、②差し押さえられた金額が滞納者の生活を困窮させるおそれがあるか否かなどを総合的に考慮して、差押処分が国税徴収法の趣旨を没却するものである場合には差押処分は権限を濫用したものとして違法であるというべきであるとした。そして本件については、前橋市の担当者が直近に確認した平成27年6月までの納税者名義預金の取引履歴をみると預金残高が常に2,000円(滞納額)を下回っていたわけでは必ずしもないから、前橋市の担当者が差押処分の直前に年金が振り込まれるとしても振り込まれる前の預金残高が2,000円(滞納額)を下回っていることを認識していたとまでは言えないと指摘。また、預金口座のうち2,000円が差し押さえられたからといって、その額が直ちに納税者が困窮に陥るおそれがある額であったということはできないとした。

以上を踏まえ高裁は、前橋市が預金債権の大部分が年金を原資とするものであると認識していたということはできないから、年金自体を差し押さえることを意図して差押処分を行ったとまでは認められないと判断。本件の差押処分が違法であるとはいえないとして、納税者の請求を棄却した。

(情報提供:株式会社ロータス21)