• 自社株対価TOBに係る譲渡益課税の繰延べが平成30年度税制改正のテーマに。
  • 株高の中、仮に課税問題が解決すれば、支配権への影響が少ない規模の小さい会社を対象としたTOBで活用される可能性も。

自社株をTOBの対価に使う自社株対価TOBには、買収資金が不要というメリットがある。また、本来であれば自社株対価TOBは会社法上の有利発行規制と現物出資規制を受けることになるが、自社株対価TOBについて産業競争力強化法に基づき国の認定を受けた場合には、両規制の対象外とするという優遇措置も存在する。

ところが、現状、自社株対価TOBは普及していない。その大きな要因と言われているのが、被TOB会社の株主に対する課税だ。自社株対価TOBが行われる場合、被TOB会社の株主は現物出資する株式よりも高い金額でTOB会社の株式を得ることになると考えられる。この場合、被TOB会社の株主に譲渡益が発生し、所得税もしくは法人税の課税対象となるが、自社株対価TOBでは、株主は実際に株式を売却するわけではないため、現金収入がない中で税負担を強いられることになる。この点がネックとなり、TOBに応じない株主が出てくるおそれもある。

そこで経済産業省は、平成30年度税制改正で、被TOB会社の株主への譲渡益課税の繰延べを要望する。同様の要望は平成24年度、25年度税制改正時にも出されたが、当時は「自社株対価TOBの実績がない」ことを理由に要望が受け入れられなかったという経緯がある。ただ、今回は、平成26年1月20日に施行された産業競争力強化法で確実に実行すべきとされる当面3年間の「実行計画」が改定の時期を迎えており、6月9日に閣議決定された「未来投資戦略2017―Society 5.0の実現に向けた改革―」にも、自社株対価TOBを念頭に、「事業再編の円滑化」として「事業ポートフォリオの迅速な転換など大胆な事業再編を促進するための方策について関係制度の検討を行い、来年度を目途に制度的対応を講ずる」との方針が盛り込まれている。

自社株対価TOBでは、被TOB会社の規模が大きければそれだけ多くの自社株式を被TOB会社の株主に渡す必要があるため、支配権に関わる問題が生じるが、逆に言うと、被TOB会社の規模が小さい場合には、自社株対価TOBが活用される可能性はある。特に現在は株高で、自社株対価TOBをやりやすい環境にあるだけに、平成30年度税制改正議論が注目される。

(情報提供:株式会社ロータス21)