• 理事長に対する貸付金を有していた納税者がその貸付金の返済原資として理事長に送金した現金を給与等と判断。納税者の源泉徴収義務を認める(東京地裁平成30年8月30日判決)。
  • 貸付金返済のために理事長に送金した現金は退職金の前払いであるから、給与等に該当すると判断。

社団法人であった納税者は、過去の税務調査の際に使途不明金がある旨の指摘を受けたことから、その一部を理事長に対する貸付金として計上するとともに、理事長との間で貸付金に係る金銭消費貸借契約書を取り交わしていた。なお、納税者と理事長の間では、理事長の退職時に支払われる予定の退職慰労金をもって貸付金の返済に充てることが確認されていた。納税者は、理事長に対する貸付金が一般社団法人への移行認可の障害になるおそれがあるとの指摘を顧問税理士から受けたことから、理事長から貸付金の返済を受けることにした。納税者は、監査法人の協力を得て退職金規程等を作成したうえで、理事長に現金を支給した。理事長は、支給された現金を貸付金の返済として納税者に送金した。これに対し税務署は、現金支給が理事長の給与等に該当するとして、納税者に対して源泉税の納税告知等を行った。これを不服とした納税者は、裁判のなかで、現金支給は退職慰労金を担保とした貸付けであるから現金支給による利益は理事長に帰属せず、給与所得は発生していない旨を主張した。

地裁は、納税者と理事長との間で退職慰労金を担保として新たな貸付けをする旨の金銭消費貸借契約が存在することを裏付ける書面が作成されておらず、その存在をうかがわせる客観的証拠がない点を指摘したうえで、納税者の主張(現金支給は退職慰労金を担保とした貸付けである)は採用できないとした。そして、現金支給当時に理事長が退職慰労金のほかに貸付金の返済をする資力を有していたとはうかがわれない点などを指摘。この点などを踏まえ地裁は、理事長に対する現金支給は貸付金の返済原資とするために退職金規程により退職慰労金の一部を退職前に支払ったものと認めるのが相当であるとしたうえで、現金支給は理事長が納税者に対して提供した労務等の対価としてその在任中に臨時に受けた賞与(給与等)に当たると判断。現金支給は給与所得に該当するため、納税者には源泉所得税の納付義務があると結論付けた。地裁判決を不服とした納税者は控訴を提起したものの、東京高裁は地裁判決の判断内容を支持する判決を下している(東京高裁平成31年1月30日判決)。

(情報提供:株式会社ロータス21)