• 令和2年度税制改正議論のテーマとなる株対価M&Aに係る譲渡損益の繰延べ措置の本則化が実現した場合、株式交付が組織再編税制の一つとして位置付けられるのかに関心。
  • 仮に株式交付が非適格再編とされ、対象会社において時価評価課税が生じることとなれば、全く利用されない恐れ。組織再編税制の文脈での議論は適当でないとの意見も。

早ければ秋の臨時国会で成立し、来年施行される見込みの改正会社法で制度化される「株式交付」を念頭に置いて、経済産業省は8月30日に公表した令和2年度税制改正要望に「株式を対価としたM&Aにおける被買収会社株主の株式譲渡益について課税繰延の措置を講ずる」旨を盛り込んだところ。これは株対価M&Aの本則化を目指すものであるということは既報のとおりだが、実務家の間では、本則化に伴い、税法上の株式交付が「組織再編税制」の一類型として位置付けられるのかどうか、関心を呼んでいる。

株式交付は、他社を子会社化するために当該他社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して、当該株式の対価として自社の株式を交付するという点で、株式交換と類似していると言えるが、株式交換が他社の株式の「全て」を自社の株式と交換し、結果として当該他社を100%子会社とする手法であるのに対し、株式交付では100%子会社化までは企図していない場合にも使えるという点で両者は大きく異なる。

仮に株式交付が株式交換の一類型として組織再編税制の一部に組み込まれた場合、適格株式交換の要件である完全支配関係の継続要件を満たさないなどとして「非適格再編」とされ、株式交付の対象会社において時価評価課税が生じることとなれば、課税上、現在の産業競争力強化法に基づく枠組みよりも厳しい措置となり、全く使用されない恐れがある。

一方、株式交付においては単に株主サイドで譲渡損益の繰延べが認められるかどうかだけが論点であることから、株式交付を企業の資産・負債に対する支配の継続・非継続という組織再編税制の文脈で議論するのは適当ではないとの意見もある。

このほか、アウト・インのシナリオでも譲渡損益の繰延べが可能となれば、外資による“乗っ取り”が増加するとの懸念も一部では聞かれるが、株対価M&Aを行う場合、金商法上の各種届出義務や開示規制等も生じることから、税制措置が講じられたからといって直ちに外資にとってハードルが低くなるわけではないとの指摘もある。

(情報提供:株式会社ロータス21)