• 令和2年度税制改正では、上場株式等の相続税評価の見直しの見送りが決定。財務省は恣意的に利用されるおそれを指摘。
  • 第三者への事業承継税制の創設は手当てされず。

令和2年度税制改正要望のうち、相続税・贈与税関係で注目された上場株式等の相続税評価の見直しだが、令和2年度税制改正での見送りが決まっている。現行、相続財産となった上場株式等については、相続時の時価と、相続時以前3か月間(①相続発生月、②その前月、③前々月)の各月のおける終値平均額のうち、最も低い価額で評価されることになるが、上場株式等は価格変動リスクの高い金融商品でもあるにも関わらず、相続時から納付期限までの10か月間の価格変動リスクが考慮されていないとし、金融庁の要望では、これらに加えて、非上場株式と同様、④課税時期(死亡日)の前年の年平均株価及び⑤課税時期の属する月以前2年間の平均株価でも評価できるよう求めていた。しかし、財務省は2年間の平均株価も評価の対象にすると、取引価格と大きくかけ離れることや、恣意的に利用されるおそれがあると指摘。実現には至らなかった。

第三者への事業承継の促進に資する税制措置の創設についても見送りが決まった。昨今では、後継者が不在であることなどを背景に、黒字企業を含めた企業の休廃業・解散件数が増加傾向にあり、経済産業省では現状を放置すれば価値のある企業や技術、ノウハウ等が失われる可能性があるとし、後継者不在の中小企業の事業承継を後押しするため、株式・事業の譲渡やM&Aを通じた親族以外の第三者による事業承継を促進するための税制措置を講じるべきとしていたが、企業の買収を税制で支援することは難しいと判断された。ただし、後継者不足に対する問題意識はあり、来年度以降も引き続き検討される見通しだ。

また、非上場株式等についての相続税・贈与税猶予及び免除制度(事業承継税制)の適用に係る手続き等の見直しも実現までには至らなかった。事業承継税制については、平成30年度税制改正で10年間の時限措置として特例制度が導入された。経済産業省などでは、例えば、すでに一般制度で事業承継税制を適用した者に対して、特例制度を適用できるようにすることなどを要望していたが、後追い的な政策税制は適用することはできないとされた。

そのほか、死亡保険金の相続税非課税限度額の拡充は見送り、金融商品に係る損益通算範囲をデリバティブ取引・預貯金等にまで拡大することは長期検討事項とされた。

(情報提供:株式会社ロータス21)