• 更正処分等により支払手数料とされた金員は原告(弁護士法人)から横領したもので誤りがあると原告が主張し、各更正処分が違法であるかが争われた事案。
  • 東京地裁は、仮に金員が横領されたものでも、納付税額は原告の主張を前提とした金額を下回るため、各更正処分は違法ではないと結論。
 本件は、弁護士法人である原告に対する法人税の更正処分等においてA(当時、原告の法律相談及び過払金請求の相談等の事務整理業務に従事。雇用契約はなし)に対する支払手数料とされた金員はA及び当時の職員Bの着服横領金であり、それに対する各更正処分が違法となるかなどが争われた事案である。
 原告は、各更正処分においてAに対する支払手数料として損金の額に算入されている金額はA及びBが原告から横領したものであり誤りがあると主張。各更正処分において売上高(債務整理事業)として計算されている金額は各事業年度を通じて約10億円以上となるが、各事業年度に係る経費及び横領金額を合計すると12億円以上となるから、原告には不正所得がなく更正処分をされることは不当であるとした。
 東京地方裁判所(鎌野真敬裁判長)は、Aは原告から給料の支払いはないものの、自らが担当する債務整理事業の売上の半分を受領するとの内容で業務を行っており、原告はAに対して報酬を支払っていることから、A及びBが原告から横領したものとはいえないとの判断を示し、原告の請求を斥けた(令和2年7月14日判決)。
 なお、東京地裁は、横領行為によって法人が損害を被った場合には、当該法人の資産を減少させたものとして損害を生じた事業年度において損金の額に算入されるとともに、法人は横領をした者に対して損害賠償請求権を取得するため、法人の資産を増加させたものとして同じ事業年度において益金に算入すべきであり(最高裁昭和43年10月17日第一小法廷判決)、加えて課税処分における税務署長の所得等の認定等に誤りがあったとしても、確定された税額が総額において租税法規によって客観的に定まっている税額を上回らなければ当該課税処分は適法になるとした(最高裁平成4年2月18日第三小法廷判決)。本件では、仮にAとBが原告から横領したものであったとしても、各更正処分と比較して益金の金額が増加するのみであり、各更正処分に係る所得金額、納付すべき税額及び翌期へ繰り越す欠損金の額は原告の主張を前提とした金額を下回るため、本件各更正処分が違法であるとはいえないとした。
(情報提供:株式会社ロータス21)