• 元取締役に対する土地の譲渡価額(簿価)と時価との差額が元取締役への給与に該当するか争われた裁決(名裁(諸)令5第26号)。
  • 審判所、元取締役は請求人の取締役辞任後も、取締役と同様の権限を有しており、当該経済的利益は元取締役に対する給与に該当。

本件は、請求人(不動産会社)が、元取締役に対し、請求人の所有する土地を簿価相当額で譲渡したことについて、原処分庁が、土地の時価と簿価に相当する額との差額は請求人から元取締役に供与した経済的利益であり、元取締役は引き続き請求人の経営に従事していたから、当該経済的利益は給与等に該当するとして、源泉所得税等の納税告知処分等をしたことから、その取消しを求めた事案である。請求人は、土地等を2億9,000万円で購入したものの、譲渡先を見つけられずにいたところ、元取締役が土地を請求人の簿価以上で第三者に譲渡できた場合、その差額は仲介手数料を含むインセンティブとして受け取るとの条件の申し出を受け、土地を元取締役に簿価で譲渡することになった。その後、元取締役は第三者に簿価以上の金額で売却している。

請求人は、元取締役に土地を譲渡した金額(簿価相当額)と、元取締役が第三者に土地を譲渡した金額との差額について、①元取締役は、請求人の役員、使用人等に該当せず、請求人の経営にも従事していないこと、②簿価相当額には土地の対価として合理性があるなど、請求人は元取締役に経済的利益を供与していないなどと主張した。

審判所は、元取締役は請求人を含む関係法人の中核となる法人の代表者であり、請求人の取締役を辞任した後も、1億円を超える融資を受ける際の商談や契約手続を行うなど、請求人の経営上の重要事項について、請求人のために行動していたから、引き続き、請求人の経営に従事し、取締役と同様の地位及び権限を有する実態にあったと認められるとした。また、元取締役が第三者に譲渡した金額は、国土交通省が不動産取引価格情報として公表している事例と比較しても土地の客観的交換価値として相当と認められる一方、請求人の元取締役への譲渡金額は、第三者に譲渡した金額の2分の1にも満たず客観的交換価値とは認められないと指摘。そして、請求人は、元取締役から当該土地を簿価よりも高く譲渡できた場合にはその差額をインセンティブとして受け取る旨の申出を受けて、土地を簿価相当額で譲渡したのであるから、請求人は、本件差額に相当する経済的利益を供与したものと認められ、元取締役に対する給与等に該当するとの判断を示した。