• 東京地裁、原告が被相続人から遺贈を受けた債権について、原告への貸付けの事実があったこと、また、会社への貸付金債権は回収不能ではないと判断(令和7年6月12日判決)。

被相続人の内縁の妻である原告は、建物(旧建物)付きの土地を購入し、その後、旧建物を取り壊してその土地上に建物を新築したが、その際原告は、被相続人から金銭を借り受ける金銭消費貸借契約を締結した。そして、実際に被相続人の口座から金銭が出金され、原告の口座を経由して土地の代金や建築工事費用が支払われた。

その後、被相続人は、①自身が経営する会社に対する貸付金債権につき、原告に6,800万円を遺贈し、その残余を本件子に相続させる、②原告に対する貸付金債権を原告に遺贈するとの内容を含む遺言をした。

処分行政庁は、原告の相続税の申告について、遺贈に係る債権の金額に誤りがあり、また、相続発生から3年前の間に被相続人から贈与により取得した財産が課税価格に加算されていないとして相続税の更正処分等を行った。さらに、原告が被相続人からブランド品を贈与されたとして贈与税の決定処分等も行った。原告はこれらの処分の取消しを求めて訴訟を提起した。

原告は、本件消費貸借契約に係る契約書は、原告が被相続人から本件土地及び新建物の贈与を受けるに当たり、原告に贈与税が課税されることを懸念して後付けで作成したものであって、貸付けの実体はないと主張。これに対し東京地裁は、金銭消費貸借契約成立の事実、契約書記載どおりの金銭の動き、土地の売買等の事実、双方に実際に消費貸借契約を成立させる意思があったことなどを認定し、原告の主張を斥けた。

また、会社に対する貸付金について原告は、①本件会社は6か月以上休眠状態であり、評価通達205によるべき、②本件遺言の趣旨は、本件新建物を遺贈するという趣旨であるから、課税価格は本件新建物の評価額によるべきなどと主張した。

この主張についても東京地裁は、仮に本件会社の資産の大半を占める建物の評価額(処分価額)が帳簿価額より相当低かったとしても、本件相続開始日において、本件会社が、経済的に破綻していることが客観的に明白であり、債権の回収の見込みがないか、又は著しく困難であると確実に認められるとはいえないし、業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、事業を廃止したり6か月以上休業したりしていたとも認められないとして、原告の主張を斥けている。