- 東京高裁、取り壊した建物帳簿価額を土地の取得価額に算入すべきとした原判決を支持(令和7年9月18日判決)。
本件は、ホテルを経営する法人(原告・控訴人)が、土地建物の取得に際して、取り壊した建物の帳簿価額を土地の取得価額に算入すべきかが争われた事案である。
東京地裁は、土地・建物の取得の目的が建物を取り壊して土地を利用するためであると認められるときは、建物の取得価額とその取壊し費用は、土地の取得価額に算入すべき(法令54条)との考えを示した上で、本件については、原告は建物を取り壊して土地上にホテルを新築することを前提とした行動をとっていたとして、建物の帳簿価額は土地の取得価額に算入すべきとの判断を下していた。
これを不服とした原告は控訴し、本件不動産の取得の目的が本件建物を取り壊して本件土地を利用するためであることが明らかとは認められないと主張した。
控訴人はまず、本件売買契約書において「改装」が「解体」と並ぶ選択肢とされていると指摘した。これに対し東京高裁は、「改装」との文言が使用されたのは、その経緯から、売買契約書上速やかな解体について義務を明示することを回避する必要があったからとみられ、他方で売主の懸念に対応し、本件建物において売主の事業と競合する健康診査事業が行われないことを確保するために用いられたものと認定した。
さらに東京高裁は、控訴人はホテルを新築する場合の客室等の見積り(ボリュームチェック)については、設計会社に依頼し綿密な検討をしている一方、改装した場合のボリュームチェックはグループ会社で行っており、不正確・不十分なものであったと指摘。その後も、アスベストの検査など、本件建物を改装して利用することを予定していたのであればされるであろう行為もしていないことからすると、社内で本件建物を改装することは具体的には検討されていなかったとした。
そのほか、ホテル新築に係る収支見込額の試算、新築高層ホテルの広告掲載、測量の依頼、銀行に対する事業計画書及びローン契約の締結、設計提案募集などの行動から、控訴人は売買契約締結後も一貫してホテルを新築することを前提とする行動をとっていたとした。
以上を踏まえ東京高裁は、本件不動産を取得した目的は、本件建物を取り壊して本件土地を利用するためであったことは明らかであり、原判決同様、本件建物帳簿価額は本件土地の取得価額に算入すべきと結論づけた。