• 政府、D&O保険(会社役員賠償責任保険)の株主代表訴訟補償特約の保険料の会社負担を問題なしとするよう会社法の解釈を明確化へ。
  • ただし、株主代表訴訟特約の保険料を会社が負担した場合、源泉所得税の個別通達上、役員に対する経済的利益の供与として給与課税が必要。上記個別通達の見直しを求める声が上がる可能性も。

1人以上の社外取締役の選任を求める改正会社法や2人以上の独立社外取締役の選任を求めるコーポレートガバナンス・コードの導入を受け、D&O保険への加入が急増しているが、その際に問題となるのが保険料を誰が負担するのかという点だ。

D&O保険には、第三者訴訟における役員の損害賠償責任をカバーする「普通保険約款」と、株主代表訴訟における役員の損害賠償責任をカバーする「株主代表訴訟補償特約」があるが、このうち「株主代表訴訟補償特約」は「会社の損害」に対する役員の損害賠償責任に備える保険である以上、その保険料を会社が負担すれば忠実義務違反(会社法355条)に抵触しかねないとの指摘がある。

この点に配慮し、税務上も、株主代表訴訟補償特約の保険料を会社が負担した場合には役員に対して経済的利益の供与があったものとして、給与課税を求めてきた(個別通達(源泉所得税)「会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて」
なお、普通保険約款に係る保険料を会社が負担した場合には給与課税不要)。

こうした中、経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会が7月24日に公表した「法的論点に関する解釈指針」では、D&O保険が犯罪行為や法令違反を認識しながら行った行為など悪意ある行為に基づき生じた損害を免責としていることなどから、株主代表訴訟補償特約の保険料を会社が負担したとしても会社法上は問題ない旨、“解釈の明確化”を図る方針が打ち出されている。

ただ、株主代表訴訟補償特約の保険料を会社負担が普及するためには、上記個別通達の存在がネックになる可能性がある。現在でも、役員報酬に保険料を上乗せした上で給与天引している会社は少なくないが、現状の個別通達によれば、役員報酬への上乗せ分は給与課税の対象となってしまう。

現在の個別通達が商法(当時)上の考え方に配慮する形で給与課税を行うとしていたことからすると、会社法で保険料の会社負担が問題なしとの解釈が採られれば、企業側から個別通達の見直しを求める声が上がることも予想される。

(情報提供:株式会社ロータス21)