• ニイウスコー社の粉飾決算事件をめぐり、控訴審も監査法人(会計監査人)の賠償責任を認めず(東京高裁平成27年11月4日判決)。
  • 高裁、監査法人が架空取引を知っていたとはいえないと指摘。監査法人の実地調査に過失なし。

近年、上場企業による粉飾決算(有価証券報告書等虚偽記載)が後を絶たない。

今回紹介する裁判事案は、東証に上場していたニイウスコー社(以下「N社」)の粉飾決算をめぐり、同社株主が同社を担当していた監査法人(会計監査人)に対し損害賠償を請求した事件だ。

株主は、第一審のなかで、監査法人はN社の粉飾を容易に発見できたにもかかわらず、会計監査人としての監査義務を怠ったなどと主張して、監査法人に対し約2,600万円の損害賠償を請求していた。

しかし、これに対し東京地裁は、監査法人は監査基準に適合した監査を行った上、無限定適正意見等を表明したということができるため、本件有報等の記載が虚偽でないことを証明した点に故意過失がなく、金商法所定の損害賠償責任を負わないと判断し、株主の監査法人に対する損害賠償請求を斥けていた。

この判決を不服とする株主は、控訴審のなかで、①失注案件(売上先行計上とその後の失注処理および買戻しによる循環取引)に関する監査調査に明らかな矛盾や不自然な点があることから監査法人は失注案件が架空取引であることを知っていたこと、②監査法人がしたCD-ROM等の実地調査には媒体の確認を怠るなどの過失があることに照らすと、本件有報等の記載が虚偽でないと証明したことについて監査法人には故意過失があると主張した。

これに対し東京高裁は、監査調書の失注案件に関する日付および製品の不一致に関し大きな矛盾があるとはいえないこと、監査人が会計記録との整合性の確認の範囲を超えて取引活動に不審な点がないかという観点から証憑を確認するわけではないことに照らすと、監査調書の失注案件に関する日付および製品に不一致があるからといって、直ちに監査法人が架空取引であることを知っていたとはいえないと指摘。また、高裁は、監査法人が実地調査を実施した際にN社の従業員が架空在庫の存在を監査法人に露呈しないよう仮装していたこと、一部のソフトウェアのデモ画面を閲覧し実在性を確認したことに照らすと、監査法人がしたCD-ROM等の実地調査に過失があるとはいえないと指摘。高裁も地裁判決と同様に、株主の監査法人に対する損害賠償請求を斥ける判決を下した。

(情報提供:株式会社ロータス21)