• 国税不服審判所、前年分の青色確定申告書に記載のない退職所得に係る所得税の額を、純損失の繰戻しによる還付金の計算対象とすることはできないと判断(平成27年12月18日裁決・請求棄却)。
  • 退職後に事業を始めるような場合には、純損失の繰戻還付ができるよう退職所得について確定申告を行うことがベター。

会社員がその勤務先を退職後に新たな事業を始めるような場合、事業を立ち上げた当初は“赤字”となることもあるだろう。

今回紹介する裁決事例で問題となったのは、前年分の青色確定申告書に記載のない退職所得に係る所得税額を、純損失(翌年分の事業で発生)の繰戻しによる還付金の対象とすることができるか否かという点だ。

事実関係をみると、平成24年12月に「個人事業の開業等届出書」を提出した請求人は、青色申告承認申請書を提出したうえで、平成24年分について青色の所得税確定申告書を期限内提出していた。

ただ、請求人が提出した平成24年分の確定申告書には、退職所得の金額や退職所得に係る所得税が記載されていなかった。

請求人は翌年、平成25年分の確定申告について、青色の確定申告書を期限内提出するとともに、平成25年分の純損失を平成24年分に繰り戻し、所得税の還付を請求する旨を記載した純損失の繰戻しによる所得税の還付請求書を提出した。

これに対し原処分庁は、還付請求書に記載された退職所得に係る金額等が前年分の確定申告書に記載されていなかったことを理由に、その退職所得に係る所得税額を還付金計算の対象とすることはできないと判断していた。これを不服とする請求人は、所得税法140条(純損失の繰戻しによる還付の請求)は前年分の確定申告書への記載を要件としていないなどと主張し、審査請求で原処分の取り消しを求めた。

しかし、国税不服審判所は、純損失が生じた前年分の確定申告について青色申告書の提出が要件とされていることからすると(所法140④)、その青色申告書に記載されていない退職所得に係る所得税の額を純損失の繰戻しによる還付金の額の計算の対象とすることはできないと判断したうえで、請求人の主張を斥けた(請求棄却)。

退職所得は、所得税法上、原則申告不要(勤務先に源泉徴収義務)とされているが、確定申告を行うこともできる。退職後に事業を立ち上げるような場合には、翌年に純損失が発生する可能性があることを踏まえ、繰戻還付ができるよう退職所得の確定申告を行うことがベターといえそうだ。

(情報提供:株式会社ロータス21)