• 平成30年度税制改正での導入が検討される“事業の買換え特例”は圧縮記帳制度の一つである以上、不採算事業の売却には同特例は適さず。「譲渡益の出る非中核事業」の売却を念頭。
  • ただ、企業側からは、非中核事業の早期売却実現を不安視する声も。導入議論では「先行取得」の是非も焦点となる可能性。

経済産業省の平成30年度税制改正要望には、「事業ポートフォリオ転換の円滑化措置」として、土地や建物等を対象とする現行の買換え特例に対し、事業そのものの売買を対象とする“事業の買換え特例”の導入が盛り込まれたところだ。

この事業の買換え特例は、現行の買換え特例同様、圧縮記帳制度の一つとして措置されることを念頭に置いている。すなわち、売却した事業の譲渡益について圧縮損を計上した分、購入した事業に係る資産(株式)の帳簿価額を減額し、購入した事業を将来売却した際に、帳簿価額が減額された分だけ譲渡益が出るようにするという仕組みである。このような仕組みがとられる限り、譲渡益の出ない不採算事業の売却に事業の買換え特例を使うメリットはない。とはいえ、多額の譲渡益が出る中核事業を売却するということも考えにくいため、結局は「譲渡益の出る非中核事業」の売却に際して活用されることが想定される。この点、不採算事業や不振子会社の切り離しのために平成29年度税制改正で導入されたスピンオフ税制とは趣旨が異なる。

ただ、企業側からは、このような非中核事業の買い手が簡単に見つかるのか不安視する声も聞かれる。基本的には、譲渡益の出る非中核事業を売却し、一定期間内に別の事業を買って来るというのが、事業の買換え特例の対象となる典型的なパターンとなろうが、売却したい事業の買い手がなかなか出てこない一方で、先に購入したい事業が見つかるというパターンも十分に考えられる。こうした場合、現行の買換え特例で認められている「先行取得」が認められるのかどうかは、今後の議論における焦点の一つとなろう。

事業の買換え特例では、改正産業競争力強化法により事業再編計画に一定の認定要件を設けることが検討されている。事業の買換えとなると現行の買換え特例における土地の買換えなどよりも金額の規模が遥かに大きくなることが予想されるため、認定要件もそれなりにしっかりしたものにならざるを得ないと思われるが、あまり厳しいものとなれば、制度自体の活用が進まない恐れもあろう。

(情報提供:株式会社ロータス21)