• 個人の麻酔医が他の病院で行った手術に係る報酬が「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当するかが争われた事件。
  • 東京地裁は令和2年1月30日、麻酔施術は原告が療養の給付の主体として行ったものとは認められず、概算経費額を必要経費に算入できないとの判断を示した。

本件は、麻酔科クリニックを個人で開設する医師(原告)が他の病院で行った手術の麻酔関連医療業務に係る報酬について、「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」(措法26条)に該当するか争われたもの。原告は所得税の確定申告を行う際に、当該報酬が「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当することを前提に概算経費額を必要経費に算入したが、処分行政庁は概算経費額を必要経費に算入できないとし、更正処分を行ったものである。

東京地方裁判所(清水知恵子裁判長)は、ある患者の治療等について複数の保険医療機関が関与する場合、一方の保険医療機関のみならず他方の保険医療機関も自ら主体となって療養の給付を行ったと評価されるためには、各保健医療機関の医師等が当該患者の治療等のために行った行為の具体的内容及びその関与の程度、各保険医療機関における物的設備等の負担の有無及び程度、他方の保険医療機関が当該患者の治療等に関与することとなった経緯及び双方の保険医療機関の関係等の事情を考慮して、他方の保険医療機関における関与が、人と物とが結合された組織体である保険医療機関として、自ら主体となって当該患者に対しその傷病の治療等に必要かつ相当と認められる医療サービスの給付を行ったものと評価することができるか否かという観点から判断することが相当であるとした。

その上で本件についてみると、本件各病院は手術の実施に当たり、執刀医、看護師など、麻酔を担当する医師を除く全ての医療従事者を提供しているほか、手術に必要な設備や器具、薬剤等についても全て用意し提供していることからすると、各病院が自ら主体となって手術を実施したものであることは明らかであると指摘。原告の関与は、医療関係行為の一環として行われた麻酔施術につき、麻酔専門医である原告を提供したにとどまるものといえるとした。したがって、裁判所は、各業務委託契約に基づいて行った麻酔施術は原告が療養の給付の主体として行ったものとは認められず、各報酬額は「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当しないため、本件概算経費額を必要経費に算入できないとの判断を示し、原告の請求を棄却した。

(情報提供:株式会社ロータス21)