• 納税者が複数の不動産に係る共有物の分割に対して不動産取得税が賦課された処分の取消しを求めていた事案について、最高裁第三小法廷(戸倉三郎裁判長)は令和4年3月22日、上告を棄却。
 納税者(上告人)は他の共有者と複数の不動産を共有していたところ、これらを一括して分割の対象とする共有物の分割により、一部の不動産の他の共有者の持分を取得し、これらを単独所有することとなった。本件は、上記持分の取得に対し不動産取得税の賦課決定処分を受けた上告人が、東京都(被上告人)を相手に、本件各処分の取消しを求めていた事案である。
 本件の原審(東京高裁)では、①本件各取得が地方税法73条の7第1号(相続による不動産の取得)に定める不動産取得税の非課税の対象に該当するか否か、②本件各取得が地方税法73条の7第2号の3(共有物の分割による不動産の取得)に定める不動産取得税の非課税の対象に該当するか否か、の2つが争点となった。①の争点に対し原審は、「本件共有物分割による本件各取得が地方税法73条の7第1号『相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)』に該当するということはできない」と判示し、控訴人の主張を斥けた。②の争点に対しては、「地方税法73条の7第2号の3の『共有物の分割』とは、土地については1筆の土地を対象とする共有物の分割をいい、数筆の土地を一括して分割の対象とする共有物の分割がこれに該当するものではないこと、本件共有物分割は、本件各不動産を一括して分割の対象とし、現物分割と価格賠償の方法を織り交ぜたものであり、1筆の土地を対象とするものではないから、同号の『共有物の分割』には該当しない」などと判示し、やはり控訴人の主張を斥けた。
 上告人は、原審における上記②の争点「本件各取得が地方税法73条の7第2号の3に定める不動産の非課税の対象に該当するか否か。」を上告理由に挙げている。上告人は、被上告人による「分割の対象となる共有物は1個に限られる」との主張に対し、「被上告人は、審査請求の手続中一貫して、総務省が発遣した『取扱通知』(総務省平成22年4月1日付総税第16号第5章第1.5の2(2))を、あたかも『租税法の特別法』のごとく課税根拠事由として主張し、『分割の対象となる共有物は1個に限られる』と説明し譲らなかった。」と主張した。
 また、上告人は、「『取扱通知』を根拠事由とした課税処分は(いわゆる通達による課税であり)、憲法84条(租税法律主義)に反するもの」、「地方税法73条の7第2号の3に規定する『共有物の分割』は1個に限られるのかどうか」について、「裁判所においても問題なく複数の不動産の共有物の一括分割に応じて頂いた。」、「被上告人は、取消訴訟の段階に至って、課税処分の根拠事由を『取扱通知』から、地方税法の他の条文と『整合性を保つ』ようにと変遷させてきたのは、課税要件明確主義に反したもの」、「判例上も『数か所に分かれて存在する多数の共有不動産について、民法258条により現物分割をする場合には、これらを一括して分割の対象とし、分割後のそれぞれの不動産を各共有者の単独所有とすることも許される。』と確認されているのに、(固定資産税の課税物件を規定した)地方税法10条の2第1項の規定との整合性を根拠条文とするのは不適当」との主張も展開した。
 これに対し最高裁は以下のとおり判示し、上告人の主張を斥け、本件上告を棄却した。
 「(前略)以上のような不動産取得税に関する地方税法の規定の内容等に照らせば、同税は、個々の不動産の取得ごとに課されるものであるということができる。そうすると、共有物の分割による不動産の取得に係る持分超過部分の有無及び額については、複数の不動産を一括して分割の対象とする場合であっても、その対象とされた個々の不動産ごとに判断すべきものと解するのが、不動産取得税の課税の仕組みと整合的であるというべきであり、また、地方税法73条の7第2号の3括弧書きの『分割前の当該共有物に係る持分の割合』という文言にも沿う解釈ということができる。したがって、複数の不動産を一括して分割の対象とする共有物の分割により不動産を取得した場合における持分超過部分の有無及び額については、分割の対象とされた個々の不動産ごとに、分割前の持分の割合に相当する価格と分割後に所有することとなった不動産の価格とを比較して判断すべきものと解するのが相当である。」「上告人は、共有物の分割により、従前は持分10分の1を有していた本件各土地について、それぞれ、他の共有者から、その余の持分10分の9を取得したというのであるから、本件各取得の全部が持分超過額の取得に当たることが明らかである。したがって、本件各取得に対しては地方税法73条の7第2号の3の規定により不動産取得税を課することができないとはいえない。」
 利用単位により評価する相続税とは異なり、地方税の多くは登記上の筆を単位に課税を行っている。また、複数の不動産の共有地の分割では、個々の不動産に着目した場合に持分超過部分が生じやすいことは明らかだ。本件最高裁判決はこれらの点に着目し、課税実務との整合性・理論づけを図ったものといえるだろう。一方で、民法上も許容された「共有物の分割」について、法律上の明文規定もない中で不動産取得税において制限的に解されるとしたことに対しては、借用概念の解釈としては一定の批判を受けることになるだろう。
(情報提供:株式会社ロータス21)