• 非居住者のFX所得が国内資産保有所得とされた裁決事案が裁判に発展も、処分行政庁が令和4年改正を受け自ら減額更正したため、納税者の訴えの利益がなくなり却下判決。訴訟費用は全額国の負担で、実質的に納税者勝訴。
 既報のとおり、国税庁は令和4年1月、令和4年度税制改正大綱を受けて、従来国内資産の運用・保有所得として取り扱っていた非居住者等のデリバティブ所得は国内資産運用保有所得に該当しないとして、従来の取扱いを変更する旨をHP上で公表した。当該改正の背景となったとされる平成31年3月25日裁決事案は東京地裁で訴訟係属中であったが、令和4年3月25日に訴えを却下する判決が言い渡された。
 却下判決が言い渡されたのは、処分行政庁が令和4年1月13日付けで減額更正を行い、自ら原処分を取り消したのと同様の効果が生じたため、納税者(原告)の訴えの利益がなくなったことによる。訴訟費用は全額国の負担とされたため、実質的に納税者の勝訴といってよいだろう。
 本件訴訟においても、国側は、審査請求時と同様に、国内に恒久的施設を有しない非居住者である個人が日本の金融商品取引業者との間で行ったFX取引について、「国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得」(所法161条①二)に該当すると主張していたが、上記の国税庁の方針変更を受け主張を取りやめ、自ら減額更正を行うことにしたようだ。
 なお、国の主張を認め、「国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得」に該当するとの判断を示した裁決は国税不服審判所のHPで公表されていたが、現在、当該裁決はHPの公表裁決事例集から削除されている。納税者に、現時点でも有効な解釈との誤解を生じさせるリスクを考慮しての対応なのかもしれないが、専門家からは、行政部内の最終判断を示す機関としては、過去に現在の取扱いと異なる判断を示していたならば、留意すべき裁決である旨を明示した上で、経緯を記録するものとして残しておくべきではないかとの意見も聞かれる。
 本件は、訴訟の途中で立法措置がとられることとなり、裁判所による解釈、判断が示されないこととなった。そのため専門家らの間では、「資産」の概念や「国内源泉」に関していまだ議論が尽きない。令和4年度税制改正大綱では、国内資産保有運用所得に該当しないことを「法令上明確化する」とされているが、法令による明確化がいかにして図られるのか、注目される。
(情報提供:株式会社ロータス21)