• 税務署などの職員が、納税義務者に質問検査等を行う際の事前通知を巡る裁決事例。
  • 国税不服審判所、身分証明証や質問検査章の提示等は質問検査権の行使に該当せず。
  • 請求人への質問や帳簿の検査などの質問検査権の行使を行っていなければ、事前通知なく納税者の事業所に臨場しても違法とならず。

税務署などの職員が、所得税等に関する調査について必要があるときは納税義務者に質問し、事業に関する帳簿書類等の検査または提出の要求など(質問検査等)を行うことができる(国税通則法74条の2第1項)。また、納税義務者に対し実地調査で質問検査等を行う場合には、その旨を事前通知するものとされている(同法74条の9第1項)。

今回紹介する事案は、職員が事前通知を行わない中で、請求人の自宅兼事業所に臨場し、身分証明書等の提示を行ったことが、質問検査等に該当するのかが争われたものだ(平成27年7月21日裁決)。

請求人は、職員が臨場の際に、請求人本人か質問し、身分証明書および質問検査章を提示して、所属と氏名、請求人の税務調査を目的に来訪したことを告げた行為は質問検査等に該当し、職員による質問検査権の行使そのものであると主張。それにもかかわらず、職員が、事前通知を行わなかったことは、事前通知の不備に当たり、適正手続を欠いた違法調査であるとして、原処分庁が行った所得税および消費税の更正処分などの賦課決定処分は取消されるべきとした。

国税不服審判所は、職員が請求人に事前通知せずに請求人の自宅兼事業所を訪れ、身分証明書の提示等を行ったことは認定しつつも「請求人の課税標準等又は税額等を認定する目的で、請求人に質問し、又はその事業に関する帳簿、書類その他その調査事項に関連性を有する物件の検査をした事実は認められない」とした。

その上で、職員による当該行為は、「請求人の事業に関する質問や帳簿書類その他の物件の検査等に至っていないのであるから、質問検査権の行使に当たらないことは明らかである」と判断、職員が請求人に対し事前通知を行わなかったことが原処分を取り消すべき事由には該当しないとして、請求人の訴えを棄却した。

なお、審判所は、原処分庁が原処分時に計算を誤った、所得税の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分の一部について、取り消しの決定を下している。

(情報提供:株式会社ロータス21)