• 審判所、所得税法33条(譲渡所得)3項の譲渡費用は、「客観的に見て譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうか」で判断。
  • 譲渡費用の判断において、平成18年4月20日の最高裁判決を踏襲。立退料に関する譲渡費用の裁決は、最高裁判決以後では本事案が初めて。

国税不服審判所は、不動産を所有している請求人が、建物の売却において立退料名目で支出した費用が「譲渡費用」に当たるか否かが争われた事案で、「譲渡費用は客観的に見て譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうか」によって判断されるとした、最高裁判所第一小法廷判決(平成18年4月20日、税資256号順号10373)を踏襲する判断を下した(平成27年9月30日裁決、棄却)。

本事案は、請求人が所有している建物の事務室を借り、建物の管理業務を行っている建物管理会社に対して、当該建物売却のために立ち退いたことを理由に、請求人が支払った金員が譲渡費用に当たらないとして、原処分庁が所得税の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分を下したものである。

請求人は、建物管理会社の立ち退きは建物売却の前提として進んでおり、また建物購入会社が別の会社に対し建物管理業務を委託したため、売却に際しては建物管理会社が立ち退く特段の事情があり、立ち退く必要性があったとした。そのため、請求人が支払った立退料は、資産の譲渡を実現するために要した「譲渡費用」に該当すると主張した。

これに対し、審判所は、所得税法33条3項の譲渡費用に関し、「一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものである」と、最高裁判決を引用した上で、請求人と建物管理会社との間で立ち退きや立退料の支払に関する書類が作成されておらず、また建物管理会社は建物売却後も引き続き事務室を賃借することは可能であったと指摘。請求人が主張する立ち退きの必要性は、請求人の主観に基づくものであり、客観的に見て譲渡の実現のために必要であったとは認められないと判断し、請求人の訴えを棄却した。

なお、立退料名目の資産の譲渡による譲渡費用に関しては、平成18年4月20日の最高裁判決以後では本事案が初めての裁決となっている。

(情報提供:株式会社ロータス21)