• 東京高裁、海外に住民票を移した納税者への公示送達による督促を無効と判断し、差押処分を取消す(平成28年4月21日判決・確定)。
  • 高裁、国内の旧住所宛に送付した納税通知書の返送がないにもかかわらず、督促状を旧住所に送付せずに公示送達を行った点を問題視。被控訴人は旧住所が納税者の居所かどうかを確認できたと指摘。

本件で問題となったのは、海外に住民票を移した納税者(控訴人)に対し地方公共団体である被控訴人が「公示送達」の方法により行った督促状の送付および財産(国内の預金口座)の差押えが違法なものであるか否かという点だ。この点に関し原審の東京地裁は、国外に転出した納税者に対する督促状の送達を公示送達で行う前に納税者が主張する方法(転出届に記載された携帯電話番号への電話など)による調査を行うことは通常必要とされる調査であったとまでは認められないなどと指摘し、納税者の海外転出先の住所が明らかでないと判断し公示送達により行った被告による督促状の送付および財産差押えは適法であると判断していた。

東京地裁判決で敗訴した納税者は控訴を提起。この控訴に対し東京高裁は、地裁判決とは一転、本件督促は公示送達の要件を欠く無効なものであると判断したうえで、本件督促を前提とする預金債権の差押処分を取り消した。

本件で高裁が問題視したのは、被控訴人が納税者の日本国内の旧住所宛てに送付した納税通知書が返送されなかったにもかかわらず、その1か月半後に、督促状を旧住所に送付することなく公示送達を行った点だ。高裁は、海外への転出直前の住所地に発送した書類が返送されなかった場合は、転出直前の住所地が海外への転出届出を提出した者の居所であり、書類が居所に送達されたと認めることができるという判断を示した。そして、被控訴人が納税者の旧住所宛てに送付した納税通知書は返送されることはなかったことから、被控訴人は旧住所が納税者の居所であることを認識できたと指摘。また、納税通知書の発送から1か月半後に、旧住所宛てに督促状を発送し返送がされないかを確認することなく、納税者の居所が明らかでなくなったと判断することの合理性は見出し難いと指摘した。そのうえで高裁は、被控訴人が行った公示送達による本件督促は「居所などが明らかでない場合」(地方税法20の2①)の要件を欠いた無効なものであるから、本件督促を前提とする差押処分は違法であると判断した。

(情報提供:株式会社ロータス21)