• 金融資産(公社債など)を相続財産として期限までに申告しなかった相続人への重加算税を審判所が取り消す(平成28年3月30日裁決)。
  • 審判所、虚偽答弁や香典メモ廃棄などは申告期限から約1年8か月後の実地調査時における言動等で計画的なものでなく、相続財産の隠ぺいをできる限り貫こうとしたとまではいい難いなどと指摘。

今回紹介する裁決事例で問題となったのは、相続財産の大部分を占める本件金融資産(公社債など)を申告期限までに申告しなかった相続人の行為が重加算税の対象となる仮装隠ぺいに該当するか否かである。

本件で原処分庁が問題視した相続人の行動の1つは、実地調査の際に香典メモ(本件金融資産を扱っている金融機関名および香典額(5,000円)が記載)の金融機関名の記載がある部分を破り、その記載がない部分が香典メモのすべてであるとして調査担当者に提示し、調査担当者が破れた部分を発見した際に金融機関との取引を知られたくなかった旨を申述した点だ。この点に関し原処分庁は、相続人は本件金融資産を含む被相続人の遺産内容と相続税の申告義務の存在を知っていたことは明らかと指摘したうえで、被相続人が金融機関と取引していたことを隠すために取引金融機関に関する虚偽答弁、香典メモ破棄行為をするなど相続財産を隠ぺいする態度・行動をできるだけ貫こうとしていたことは重加算税の賦課要件を満たすものであると主張した。

これに対し審判所は、虚偽答弁や香典メモ破棄行為という明らかな証拠隠滅行為に及んだことなど、相続人には相続財産を隠ぺいし無申告で済ませようとする意図をうかがわせる一定の事情が認められると認定。しかし、この点に関し審判所は、これらの事情は申告期限経過時から約1年8か月が経過した後の調査時点における言動等であって、その内容をみても事前準備を要するような計画的なものではなくとっさにとった行動とも評価し得ると指摘。調査後遅滞なく期限後申告に応じていることなども考慮すると、相続財産を隠ぺいし無申告で済ませようとする態度・行動をできる限り貫こうとしたとまではいい難いと指摘した。そのうえで審判所は、相続財産総額が多額でありその大部分を占める本件金融資産について実地調査の際に香典メモ破棄などの証拠隠滅行為がされたことを考慮しても、相続人が相続税を申告しない意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたうえその意図に基づき期限までに申告書を提出しなかったとまでは認めることができないと判断し、重加算税を取り消した。

(情報提供:株式会社ロータス21)