• 被相続人の配偶者が行った相続放棄に対して、その子が相続放棄の無効確認を求めていた裁判で訴えを不適法とする判決(東京地裁平成27年11月26日・東京高裁平成28年6月29日判決)。
  • 裁判所、相続放棄の無効は遺産分割審判や訴訟等の手続きのなかで主張することが可能。本件訴えが必要かつ適切とは認め難いと指摘。

相続をめぐり相続人間のトラブルが訴訟に発展するケースは少なくない。今回紹介する相続をめぐる訴訟事件は、被相続人の配偶者(被告・被控訴人)が家庭裁判所に対して行った相続放棄の申述について、被相続人と配偶者の子(原告・控訴人)が相続放棄の無効確認を求めたものである。

本件で被相続人の子が問題視したのは、被相続人の配偶者が相続放棄後に被相続人名義の自動車を廃棄処分にした点である。

この点に関し被相続人の子は、配偶者による自動車の廃棄処分が法定単純承認事項に該当すれば、被相続人の子は配偶者を相手として遺産相続の手続きがとれることになるため、本件訴えには確認の利益があると主張。また、被相続人の子は、自動車の廃棄処分により被相続人の相続財産が減少させられたことに納得できないことから相続放棄が無効であることの確認を求めているのであって、この点でも本件訴えには確認の利益があるという主張を展開した。

これに対し裁判所は、被相続人の子が遺産相続の手続きをとる前提として本件訴訟を提起している点について、家庭裁判所が相続放棄の申述を受理したとしても相続の放棄に法律上無効原因が存する場合には、後日、訴訟等においてこれを主張することは妨げられないため、被相続人の子は遺産分割審判等の手続中でその無効を主張でき、被相続人の子のこの点についての主張から確認の利益を認めることは困難と指摘。

また、裁判所は、配偶者の相続放棄の無効を確認することにより、被相続人の子のいかなる法律上の地位ないし利益が害されるのかが被相続人の子の主張からは明らかでないと指摘。さらに、仮に自動車の廃棄処分により配偶者の相続放棄に無効原因があるとしても、被相続人の子はその無効を後日訴訟等で主張することも妨げられないから、本件訴えが必要かつ適切であるとは認め難いと指摘した。そのうえで裁判所は、被相続人の子の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために配偶者の相続放棄が無効であることを確認することが必要かつ適切であるとは認められないと判断し、相続放棄の無効確認を求める本件訴えは不適法であると結論付けた。

(情報提供:株式会社ロータス21)